「チーム力を最大にする『ファシリテーター』とは何か」

「チーム力を最大にする「ファシリテーター」とは何か」
  (「プレジデント」プレジデント社 2002年2月4日号)

(株)ピープルフォーカスコンサルティング 代表取締役
ファシリテーターズクラブ 代表
黒田由貴子

あなたは、上司として、多彩な人材をまとめきれる自信がありますか。問題・課題を解決しながら、チーム力を発揮させることができますか。それを容易にする手法が、新しいリーダーシップ像として注目されています。

「この組織にいれば自分の力以上の能力を発揮できる・・・・・・・」】

いまアメリカの企業では、ファシリテーション・スキル(facilitation skill)という手法が、プロジェクトチームの運営や組織の活性化、そして新しいリーダーシップ像として注目されている。一般にファシリテーションは会議の進行役ととらえられているが、我々は役割をもう一段拡大解釈して、次のように定義している。

  • 中立的な立場で
  • チームのプロセスを引き出し
  • そのチームの成果が最大となるように支援する

これまでは、「オレの背中を見てついて来い」といった、いわば「お山の大将」型リーダーが組織を引っ張ってきた。しかし、いまのフラット化した企業組織の中で、専門的なスキルを身につけた社員達を引っ張るには、従来型リーダーシップでは立ち行かなくなってきた。
まず、年功序列制度が崩壊して部下が自分より年長であったりする。また、人材の流動化が進み、中途採用者は自分と異なる体験をしてきたり、異なる価値観を持っていたりする。さらには、市場や技術がより高度化するにつれ部下のスキルも専門化してきているので、上司といえども、すべてを理解しえない。変革に次ぐ変革が必要ないま、組織や肩書きを超えたチームが機能しなければならなくなってきている。
チームリーダーは、勇気を持って多様な人材を受け入れたいと頭では理解しているのだが深層心理としては、はたして自分が多様な人材をまとめきれるか否か自身がない。そこで、個々のメンバーの力を引き出し、チーム力を最大限に膨らますという、いままでとは違うリーダーシップのスタイルが必要になってくる。
このところ、自立したプロフェッショナルという考え方が人気だ。しかし、この組織にいれば自分の力以上のものを発揮できる、とメンバーに感じさせる環境をつくってやることが、リーダーとしての本来の務めではないだろうか。つまり、自立したプロフェッショナルたちが、知恵や力を合わせて、シナジー効果を挙げていく、これが本来のチームワークであり、それこそがファシリテーション・スキル
のテーマなのである。

議論を引き起こしメンバーに考えさせ決めていく

あるファシリテーターの働きを、プロジェクトチームの会議の場面において、ほんの一部展開してみよう。

会議を構成するメンバーは、ファシリテーション・スキルを発揮するプロジェクトチームリーダー(PTL)、補佐役のサブリーダー(SL)、チームメンバー(TM)のA氏、B氏、C氏の三人、そして関連部門からの参加者D氏、の六人である。

PTL 「プロジェクトの進捗状況が予定から二週間も遅れているのは周知のとおりです。今日はそのために、どうするかについて議論するために集まってもらいました。まず原因を明らかにしたうえで対策を立てたいと思います」

TM:A 「原因は明らかですよ。もともとの計画に無理があったのです」

SL 「計画をつくったのは私だが、では私が悪いと言うのかな。皆だって納得していたじゃないか」

PTL 「原因の追求は、遅れを挽回するためにしていることを忘れないでください。責任のなすりつけあいをする場にはしたくありません。Aさん、計画の中のどこに無理があったというのですか」

TM:A 「他部門に協力を仰がなくてはならない作業の期間の読みが甘かったと思うのです」

PTL 「つまり、他部門が関わる作業が予想以上に時間がかかったというわけですね。どのくらい時間がかかったのですか?」

TM:A 「予定では二週間、つまり昨日までに終わっているはずだったのに、まだ半分しかできていません」

PTL 「なるほど。皆さん、他に考えられる原因は?」

TM:B 「とにかく、頑張ってやるしかないってことですよ」

PTL 「その意見はあとで聞きますけど、Bさんが考える原因は何ですか?」

TM:B 「私の担当の部門は予定どおりに進んでいます」

関係者D 「さっき、Aさんが関連部門の作業が遅いと言っていましたが、うちの部署だって忙しいんだから、急に頼まれても困るんですよ。こういうことは事前に上層部を通して根回ししておいてもらわないと」

SL 「私はDさんの上司にメールを送っておきましたよ」

PTL
 「Dさん、Dさんの部署の上層部が理解不足で作業がなかなか進まないということですか?」

関係者D 「そうです。上からは緊急の仕事がいっぱい降ってきますから、我々としてはそれを優先せざるをえません」

PTL 「なるほど。Dさんもお困りなのですね。Cさんの意見は?」

TM:C 「私の作業は四日間ほど遅れていますが、これはシステム上の不具合が原因でした。でもその問題はもう解決しました。しかし、やはり他部門の情報が集まらないと、次の作業に移れません」

PTL 「話を総合すると、遅れの原因は、計画時に想定していた以上に、他部門の作業が時間がかかったことと、システム上の不具合。そして今後は他部門の作業の遅れを取り戻すことが最重要課題で、そのために他部門の上層部を巻き込む必要があるということですね」

一同、うなずく。

PTL 「では、どのような対策がいいか、ブレーンストーミングしてみましょう」

このように、ファシリテーターには、問題点を整理し、問題の本質がどこにあるかを嗅ぎ分けるビジネスIQと、人の感情に働きかけて考えさせるEQの能力が必要である。そのうえで、議論を引き起こし、チームメンバーに考えさせ、決めさせていくというプロセスをつくることが、その役割なのである。
すでに、日本でも、この手法を使って問題を解決し、新しいチーム作りに成果を挙げる企業が出始めている。