「第1回/2回  今、ファシリテーションが日本企業で大ブレークする理由」

「第1回/2回 
今、ファシリテーションが日本企業で大ブレークする理由」
  (「専門家の眼」日経BP社 2004年4月掲載)

(株)ピープルフォーカスコンサルティング 代表取締役
ファシリテーターズクラブ 代表
黒田由貴子

「ファシリテーション」という言葉を聞いたことがない、という方もいらっしゃると思いますし、どこかで耳にしたことがあったり、興味はあるんだけれども、具体的にどういう仕事かイメージできない、という方も多いと思います。
そこでファシリテーションとは何なのかについて、まずお話ししましょう。

会議の「成果」に責任を持つ!

私の経営しているコンサルティング会社が、ファシリテーションに興味がある方々を会員として運営している「ファシリテーターズ・クラブ」というのがあります。無料のクラブなんですが、「どんな人がファシリテーションに興味を持っているのかな」と思ってこの会員に簡単なアンケートをしたところ、約50%の方が実際にファシリテーションをやった経験がない、と答えました。

一方ファシリテーションをやったことがある人に、「どんなところでやったのか」聞いてみたところ、38%の人が「少人数グループのプロジェクトで」、22%の人が「社内の日常的なファンクションとして」、18%が「社内のフォーマルな会議で」、16%が「社外のクライアントで」と答えています。

驚いたのは、この「日常的にやっている」という人の割合が思いのほか多いことでしたね。

ファシリテーションと一口に言っても、その対象とする状況や人々によって様々なものがあります。私も、「ファシリテーションとは何か」について一言で説明するにはどうしたらいいだろうと、2年間ぐらい悩みました。

ここでは、主に企業内のビジネス会議のファシリテーションを想定して私が考えた4項目の定義をご紹介します。ファシリテーションとは企業内のプロジェクトやチーム活動などにおいて、

1) 議論の中身については中立的な立場で、
2) プロセスを管理・リードし、

ここまでなら会議の司会進行の役目に近いんですけれども、それだけではないんです。これにあと2つ、

3) チームワークを引き出し、

単に予定通り進めばいいというのではなく、チームワークによって1+1が3にも5にもなるように全員の協力を引き出すことです。そして最後に、

4) 成果が最大になるように支援すること というのが加わります。

つまり、会議の進行だけでなく、その「成果」につても責任を負うというのが、ファシリテーションの特徴なんですね。

「健全」と「賢明」のバランスが必要

ビジネスの場でのファシリテーションといった場合、まだ多くは教育研修の場で用いられることが多いんじゃないかと思います。ただ、私は単なる研修ではなく、それが直接ビジネスの成果になる、つまり「問題解決型」のファシリテーションを想定してお話ししていきます。

ファシリテーターの仕事の仕方については、ここではいちいち細かく取り上げませんが、この分野の方々とお話ししていてよく話題になるのは、ファシリテーターには大きく「右脳型」と「左脳型」の二つのタイプがあるということです。

論理的にチームの議論を整理しまとめていく=左脳型と、チームのメンバーの感性に訴えて議論の方向を前向きに、クリエイティブにしていく=右脳型という分類です。堀さん(日本ファシリテーション協会 会長)が描写された左脳型ファシリテーターの特徴によると、私自信は完璧な左脳型の典型になるようです。しかし、自分では、けっこう右脳型と思ってるんですが(笑)。

まあ、実際にはファシリテーションには右脳と左脳のどちらかだけではダメで、両方のバランスが大切だと思います。私は大脳生理学は詳しくないので、うかつに右脳だ左脳だとは言わずに、このバランスのことを右脳→「健全」、左脳→「賢明」のバランス、と言い換えています。

最近の日本の大企業を見ていますと、どうも「賢明」ではあるのだけれど「健全」でないというケースが多く見られます。今、ファシリテーターに求められる役割の一つは、組織の健全化であると考えています。

正しいコミュニケーションの「挑発」もやる

例えばどういうことかというと、これは私がコンサルに入ったある企業の組織の実例です。

その組織ではチームのメンバーがお互いに、本人のいないところで他人の悪口ばかり言うのです。でも会議のような公式の場では建前の話しか出てきません。チームに本音で議論をしてもらうおうと、KJ法(問題点やアイデアなどのメモを書かせて、それをボード上に並べながら課題の整理をする会議法)などを使ってみるのですが、まったく効果がありません。お互いに決して本音を言わないのです。

このとき、私と一緒にファシリテーションをしていたある大学教授が、「いったい何なんですかあなたたちは。私は呆れましたよ。こんな議論で」と渇を入れたのです。すると、その場の雰囲気が変わり、メンバーらは問題に向き合って議論を始めました。

これは「挑発する」という、ファシリテーションのテクニックの一つです。このとき重要なのは、攻撃を「あなたたち」(参加者全員)とし、決して特定の個人やグループに向けないことです。また、ファシリテーターがメンバーから信頼、尊敬されている人であることも前提として必要です。

会議が論理的に正しい方向に進むかどうかだけでなく、参加者同士の間にきちんとしたコミュニケーションが成立しているかどうかをチェックし、それを定期的に全員に知らせる。この「プロセスのチェックとフィードバック」が、チームの健全性を作るための方法の一つです。

健全さと賢明さを備えたファシリテーションを行うための、さらなるポイントや事例を次回お話いたします。

前回は、ファシリテーションには「健全さ」と「賢明さ」のバランスが必要、そしてチームの健全性をつくる方法の一つに、「プロセスのチェックとフィードバック」があるという話でした。では、健全性をつくるあと二つの方法とは何でしょうか。
方法の二つ目は、チームに「効力感」を醸成することです。

効力感とは、自分がやったことの結果が全体に反映されていると感じることです。

これがあると、プロジェクトや会議の運営に積極的に参加しようとするモチベーションが生まれます。

健全さの欠けた組織をコンサルティングするときには、よく会議の前にアイスブレークと称するゲームをやったりして、チームのメンバーに一体感を醸成するようにします。さらにチームの効力感をどう示すかがポイントになります。

三つ目は、「多様性の認識」です。要するに、自分とは異なる考え方を持つ他人がチームの中にいると分かってもらうことですね。これは、様々な個人アセスメントのツールを使うことで実現できます。世の中には、心理学者が開発したツールが数多く存在していますので、2~3個のツールをマスターしておくとよいですね。

「賢明さ」の第1歩は情報の信頼性を疑うこと

一方、「賢明さ」をつくる方法というのは、論理的な思考のスキルであると言えます。こちらはここ数年、いろいろな方法論が紹介されていますね。ロジカルシンキング、システムシンキング、クリティカルシンキングといったものです。

ちなみにみなさん、この三つをきちんと区別して、説明できますか?

ロジカルシンキングは、ロジックツリーによる論点の構造化、MECE(もれなくだぶりなく)にケースを網羅するといった技術です。最近はロジックツリーの有効性に異を唱える人も出てきていますね。しっくり来ない場合は、全体の因果関係の俯瞰(ふかん)と、フィードバックループを描くことによって状況を理解する方法が適しています。これがシステムシンキングです。

一方クリティカルシンキングというのは、日本語で言うと「批判的思考」とでもいう感じですか。論理構造の整理のみならず、ある状況説明の根拠だとか、情報源を本当に信じていいのかなどをも追求する発想法ですね。

私の経験で言うと、直感的な言い分に対して情報源の信頼性を問いかけることによって、ファシリテーターが威力を発揮できることが多いように思います。

例えば、これは先述とは別のある企業にコンサルに入ったときの話です。

若手社員を集めて経営課題を議論し、その結果を経営陣にぶつけるというプロジェクトでした。そこで、若手の社員が口々に「当社の経営陣は、ターゲットするセグメント(顧客層)に優先順位がつけていないのがおかしい」と批判していました。「あれもこれも全部やれと、無理難題ばかりが現場に押し付けられている」というのですね。

そこで、私は「本当にそうなんですか。経営陣は本当に優先順位をつけていないんですか」と尋ねてみました。すると、別の若手社員から「そういえばABCのランクはある」というコメントが出てきたんです。そこから、経営陣よりも現場の問題の方が大きいのかもしれないという、現場についての議論がどんどん出てくるようになりました。

「経営陣が悪い」という意見に対して「本当にそうなの?」という根拠や信頼性を問うていく作業が、議論の発展を促すわけです。

「バーチャルチーム」という概念の希薄さ

ファシリテーションというのは、もともと米国で生まれた概念ですが、私は最近「日本では米国以上に広がる可能性がある」と思うようになっています。

というのは、例えば米国では、ある重要な会議のプロセスをきちんと管理して進める必要があると、「外部からファシリテーターのプロを呼べばいい」と言う人が多いのです。

これに対して、日本では会議の効率や効果に対する問題意識が高まっており、社内にファシリテーションのできるスタッフを育成しようという意識の高まりは米国以上であるように最近は感じています。

さらに、日本企業が今直面している「組織の変化」という課題も存在しています。これまでは例えホワイトカラーであっても「指示・命令」が企業の組織を動かす基本論理でしたが、ナレッジワーカーの組織になるにつれて、強制的な命令ではなく、異能集団のチームワークによる「ファシリテーション」的な運営が不可欠になります。

オーケストラに例えると、バイオリニストは指揮者にバイオリンの弾き方を教えてもらうわけではありません。指揮者の役割は「演奏者の息(ペース)を合わせる」ことなわけです。日本企業で今求められているナレッジワーカーの組織でも、こういう「指揮者型リーダー」というのが必要不可欠になっています。

「ファシリテーションを習得している人材」の必要度は、これから日本の企業で高まるばかりでしょう。

一方、私が懸念していることもあります。それは、日本企業にまだ「バーチャルチーム」という概念が非常に薄いことです。

例えば米国の企業では、あちこちの国にいる会ったこともない人と一緒に仕事をするのが当たり前です。また、そういう人たちをまとめてうまく仕事を進めていくためのITツールなどもいろいろなものが開発されています。私の会社でもそのようなツールを紹介しているのですが、日本企業から関心を持っていただくことはほとんどありません。

今後、企業の活動がますますグローバル化し、構成員も多国籍化せざるを得なくなっていく中で、日本企業のこうした意識の後れは非常に”まずい”と思います。ファシリテーションという切り口から、グローバルに異能集団を活用することにもっと目を向けてほしいと思います。